── マクロ逆風とプロトコル進化の交差点
米マクロ環境の再引き締めとリスクオフの進行を背景に、ビットコインは調整局面から抜け出せずにいる。
英銀大手のStandard Charteredは、最終的な底打ち前に5万ドル水準までの下落余地があると警告し、市場センチメントを冷やした。
一方で、オンチェーンの内側では静かな変化も進行している。
量子耐性アップデートの議論再燃、そしてBinanceによる10億ドル規模のSAFUをビットコイン建てへ全面転換。
これらは、短期価格とは異なるレイヤーでの「構造的信頼」を示す動きだ。
本稿では、
① なぜ5万ドルシナリオが語られているのか
② それは本当にオンチェーン由来の弱さなのか
③ 量子耐性と準備金構造が持つ中長期的意味
を整理する。
■ スタンダード・チャータードが警告する「最終的な投げ売り局面」
ビットコインは2月中旬、6万6,000ドル台まで下落。
米テック株を中心としたAI関連バリュエーション調整、強い雇用統計による利下げ期待後退、さらに地政学リスクが重なり、暗号資産市場もリスクオフに巻き込まれた。
こうした環境下で、スタンダード・チャータードのデジタル資産リサーチ責任者ジェフリー・ケンドリック氏は、
「デジタル資産価格は、さらなる痛みと最終的な投げ売り局面を迎える」
と指摘。
同行は、今後数カ月で
・BTC:5万ドル近辺
・ETH:1,400ドル近辺
まで下落した後、2026年後半に反発するシナリオを想定している。
年末予想は依然として
・BTC:10万ドル
・ETH:4,000ドル
を維持する一方、強気一辺倒だった上振れ目標は引き下げられた。
■ ETFフローが示すのは「需給悪化」ではなくポジション整理
慎重見通しの根拠として挙げられているのが、ビットコインETFの資金フローだ。
2025年10月以降、ETF保有量は約10万BTC減少。
特に9万ドル近辺で参入した投資家層は、現在大きな含み損を抱えている。
結果として、
・2025年11月:月間31.6億ドルの資金流出
・2026年1月:7.8億ドルの流出
を経て、ETFのAUMは1000億ドルを下回る水準まで縮小した。
重要なのは、これは
オンチェーン供給の悪化や
長期保有者の投げ売り
ではなく、マクロ主導のポジション圧縮だという点だ。
■ BTC下落の正体は「クロスアセット連動」
現在のビットコインは、
・ナスダック
・S&P500
・ラッセル2000
といった米株指数との正の相関を再び強めている。
株式が調整局面に入ると、
レバレッジ解消
リスク量削減
が同時に起こり、BTCも「高βリスク資産」として売られやすくなる。
つまり、5万ドルシナリオが語られている背景は、
ビットコイン固有の問題ではなく、クロスアセット環境そのものにある。
■ 量子耐性アップデート──価格とは別軸で進む進化
こうした弱気センチメントの裏側で、プロトコル開発は止まっていない。
2月12日、
**Pay-to-Merkle-Root(P2MR)**を導入する
BIP-360改訂版が公表された。
この提案は、
・量子計算に脆弱とされるTaprootキーパス支払いを回避
・既存Tapscriptとの互換性を維持
する設計で、量子耐性に向けた現実的な第一歩と評価されている。
この動きを支援しているのが、
世界最大級のビットコインマイナーMARAの支援を受ける研究プラットフォームだ。
量子リスクは短期価格を動かす材料ではない。
しかし、マクロ不安定期にもプロトコル進化が進んでいるという事実は、構造的な信頼を下支えする。
■ BinanceのSAFU転換が示す「準備金の質」
もう一つの象徴的な動きが、BinanceによるSAFUの全面刷新だ。
同社は
・4,545BTCを追加取得
・総保有量:15,000BTC
・評価額:約10億ドル
まで積み上げ、
暗号資産+ステーブルコイン混合型から
ビットコイン100%裏付けへ移行した。
さらに、
・公開ウォレットアドレス
・最新トランザクションハッシュ
を開示し、透明性を強調している。
価格下落を止める直接効果はなかったが、
BNB価格は相対的に底堅く推移しており、
信頼構造の再設計がトークン評価に影響し始めていることが読み取れる。
■ 結論:5万ドルは「価格予測」、量子耐性は「制度時間」
5万ドルシナリオは否定できない。
マクロ主導のリスクオフが続けば、短期的な下振れは十分にあり得る。
だが同時に、
・量子耐性アップデート
・準備金構造の健全化
・オンチェーンと制度の接続
は、価格とは異なる時間軸で進行している。
重要なのは、
「どこまで下がるか」ではなく、
下がる局面で何が積み上がっているかだ。
ビットコイン市場は、
短期的には耐えるフェーズにある。
しかし構造面では、次のサイクルに向けた土台作りが、静かに進んでいる。
