仮想通貨を巡るマネーロンダリング(資金洗浄)の構図が、いま静かに、しかし決定的に変わりつつある。
中央集権型取引所(CEX)を経由した違法資金の流れは減少し、その代わりに台頭しているのが、中国語圏を中心とした“地下ネットワーク”だ。
ブロックチェーン分析企業チェイナリシスが発表した最新レポートは、
この「見えにくい金融圏」の拡大を、明確なデータとともに浮かび上がらせている。
それは単なる犯罪手法の進化ではない。
規制強化が生んだ「新たな裏市場」の誕生を意味している。
■ CEXはもはや使えない──規制が変えた犯罪インフラ
かつて、仮想通貨マネーロンダリングの中心は、中央集権型取引所だった。
本人確認の甘さ
資金監視体制の未整備
国境を越える送金の容易さ
これらが、犯罪資金の“通り道”として機能していた。
しかし現在、その状況は大きく変わった。
各国当局の圧力により、
KYC(本人確認)の厳格化、資金凍結体制の強化、取引監視システムの高度化が進み、
CEXは「安全な洗浄ルート」ではなくなった。
チェイナリシスは、「取引所は資金を止められる存在になった」と指摘している。
つまり、規制は一定の成果を上げたのだ。
■ 中国語圏ネットワークという“影の金融網”
CEXが使えなくなった結果、犯罪者が向かった先が、中国語圏ネットワークである。
これらは、主にテレグラムを拠点に、
「非公式OTC取引」「マネーミュール組織」「オンライン賭博」「地下決済業者」を組み合わせた
「マネーロンダリング・アズ・ア・サービス」を提供する。
特徴は、完全な分業制と匿名性だ。
・集金役
・換金役
・送金役
・分散管理者
が分かれ、1人が全体像を把握しない構造になっている。
2020年のコロナ禍を契機に急拡大し、
現在では「既知のマネロン活動の大半」を占める存在にまで成長した。
■ 違法資金820億ドル時代──オンチェーン犯罪の爆発
チェイナリシスによれば、
2025年に洗浄された違法資金は820億ドル超。2020年の約100億ドルから、8倍以上に膨らんだ。
このうち約160億ドルを、中国語圏ネットワークが処理している。
1日あたり約4400万ドル。
もはや「一部の犯罪者の問題」ではない。巨大な地下金融産業である。
背景にあるのは、
・仮想通貨の普及
・DeFiの拡大
・クロスチェーン技術
・匿名ツールの進化
利便性の進化は、そのまま犯罪効率の進化にもつながった。
■ 規制の“成功”が生んだ新たなリスク
皮肉なことに、この地下化は規制強化の「副作用」でもある。
CEXを締め上げる
→ 表市場が安全化
→ 犯罪は地下へ移動
という構図だ。
つまり、表の金融は健全化したが、裏の金融はより見えにくく、より国際化した。
結果として、
・追跡困難
・摘発困難
・国際捜査の遅れ
という新たな課題が生まれている。
■ 法執行機関は追いつけるのか
英RUSIのトム・キーティング氏は、こう警告する。
「犯罪者と法執行機関の能力格差は、依然として大きい」
ブロックチェーン分析技術は進化した。
しかし、それを使いこなせる捜査体制は十分ではない。
多くの国では専門人材不足、予算不足、国際連携の弱さが足かせとなっている。
チェイナリシスも、「運営者・広告拠点・仲介業者を狙う必要がある」と指摘する。
技術だけではなく、組織と制度の改革が不可欠なのだ。
■ 結論:マネロンとの戦いは“第2フェーズ”へ
仮想通貨マネーロンダリングは、終わっていない。
形を変えただけだ。
CEX時代 → 地下ネットワーク時代へ
単純構造 → 分散構造へ
局所犯罪 → 国際産業へ
戦いのステージは、確実に進化している。
今後問われるのは、
・規制の精度
・国際協調
・捜査能力の高度化
・民間分析企業との連携
である。
2020年代後半、仮想通貨は「金融インフラ」として定着する。
同時に、犯罪との戦いもまた、長期戦に突入する。
健全な市場を守れるかどうかは、この“見えない戦場”への対応にかかっている。
仮想通貨の未来は、技術だけでなく、統治能力によって決まるのだ。
