日経級の制度テーマが、いま静かに国際会議の議題へと移行している。
3月に東京・渋谷で開催される BGIN Block 14 は、単なる業界イベントではない。これは、日本の暗号資産制度が資金決済法から金融商品取引法へ移行する歴史的局面と同期する、「制度設計フェーズの中枢会議」である。
本稿では、この会議を短期の制度形成インパクトと、中長期の金融秩序再設計の視点から整理する。
■ 国際標準とは何か──規制主導ではなく合意主導
今回の会議は、Japan Fintech Week 2026 の主要イベントとして開催される。だが本質は展示会でも政策説明会でもない。
BGINの最大の特徴は、
「規制を決める場」ではなく
「規制の前提を定義する場」
である点にある。
金融ルールは通常、各国当局が個別に設計する。
しかし暗号資産領域では、
・技術が国境を持たない
・資産が瞬時に越境する
・主体が分散している
という特性上、単一国家の制度だけでは市場を統治できない。
そこで必要になるのが、国際合意としての実務標準だ。
BGINはこの「非公式だが実質的に強い」標準形成を担う場として機能している。
■ なぜ今なのか──金商法移行という制度臨界点
日本では現在、暗号資産規制を資金決済法から金商法へ移す制度改革が進んでいる。
審議・成立後には約1年の準備期間を経て施行される見込みだ。
この制度転換について議論を主導する一人が、
松尾真一郎(ジョージタウン大学/バージニア工科大学研究教授)である。
同氏は、JVCEA 向け説明会で次のように述べている。
「移行期のいま参加し、議論に発言することが重要」
ここで重要なのは、制度移行の「条文」ではなく
実務ルールがまだ未確定だという点だ。
現在動いているのは
・府令
・ガイドライン
・監督指針
といった運用レイヤーの設計段階であり、ここに影響を与え得るのが国際標準議論なのである。
つまりBGINは、制度決定後の意見提出ではなく、制度形成前の仕様策定に関与できる数少ない場だ。
■ 短期:争点は「責任準備金」と「定義」
今回の14セッションの中で、実務上の焦点となるのは次の4領域である。
①責任準備金
最大の論点は水準モデルが未確立なことだ。
現在、日本には算定基準の共通フォーマットが存在しない。
国際的な算定基準が定まれば、
国内制度はそれを参照する可能性が高い。
②サイバーセキュリティ
議論対象は単なる技術要件ではない。
・鍵管理の標準化
・インシデント共有プロトコル
・AI検知連携
など、リスク評価そのものの定義が扱われる。
これは将来、金融庁 が監督指針を設計する際の評価軸になり得る。
③不公正取引定義
市場監視の前提となる用語・分類・データ基盤の統一が議題に入っている。
これは規制より上位の概念設計だ。
定義が決まれば、規制は自動的に決まる。
④監査ルール
金商法体系では監査の重要度が跳ね上がる。
監査項目の優先順位や検証範囲が国際基準で揃えば、国内監査実務もそれに収束する可能性が高い。
■ 本質:政策ではなく「標準覇権」
ここで注目すべきは、日本が制度を変えることではない。
誰が標準を定義するか
である。
金融史を振り返れば、
・会計基準
・通信規格
・決済仕様
いずれも「先に標準を握った主体」が市場を支配してきた。
暗号資産分野でも同じ構図が進行している。
国家が市場を決める時代から
標準が市場を決める時代へ。
BGINはその標準設計の舞台だ。
■ グローバル文脈:制度競争はすでに始まっている
欧米ではすでに
・トークン化証券
・オンチェーンファンド
・リアルタイム清算
が制度設計段階に入っている。
つまり今回の議論は追随ではない。
国際制度競争への参加宣言である。
特に金商法移行は、日本の暗号資産を
決済資産
→ 金融商品
へと位置付け直す可能性を持つ。
これは税制、監督、会計、監査すべてを書き換える制度転換だ。
■ 中長期:暗号資産は「資産クラス」になる
もし国際標準が整備されれば、暗号資産は次の段階へ進む。
それは
新興技術ではなく
正式な資産クラス
としての定着である。
その時起きる構造変化は三つ。
・機関投資家資金の流入
・クロスボーダー市場統合
・金融商品化の加速
価格ではなく、制度が市場を動かすフェーズに入る。
■ 結論:Block 14は会議ではなく起点
BGIN Block 14の意味はイベント開催ではない。
制度の草案が生まれる瞬間である。
短期的には
・概念定義の調整
・基準策定競争
・利害対立
が続く。
しかし中長期では
・規制の国際同期
・監督の共通化
・市場の相互接続
が進む可能性が高い。
金融の主戦場は、すでに法案ではない。
標準仕様である。
暗号資産市場の次の勝者は、
価格を読む者ではない。
ルールを書く側だ。
参照:暗号資産の類型区分、責任準備金、セキュリティ対策…金商法移行に向け、多様な課題を「国際標準」の観点から議論──3月、東京・渋谷で開催「BGIN Block 14」が持つ重要な意味とは
