日経報道を契機に、日本の金融セクターで新たな構造変化が浮上している。
3メガバンクと大手証券が共同で、ステーブルコインによる株式・債券・投資信託決済の枠組み構築に踏み出した。
これは単なる実証実験ではない。
金融インフラの再設計を巡る「制度×技術×競争」の三層戦略が同時に走り出したシグナルである。
本稿では、この動きを短期の市場インパクトと、中長期の金融秩序再編の観点から整理する。
■ ステーブルコイン決済とは何か──清算システムの再定義
今回の計画は、金融庁のFinTech実証枠組みを活用し、株式売買などの決済をブロックチェーン上で行う仕組みの検証から始まる。
当初は商社の国際決済用途とされていた共同ステーブルコインだが、
証券決済という中核インフラ領域へ拡張されることで、金融ユースケースの次元が変わる。
従来の証券決済は、
・証券会社
・清算機関
・保管振替機構
といった多層構造のレガシーシステムで成立してきた。
ブロックチェーン決済は、この仲介レイヤーの一部を統合し、
資金移動と資産移転を同時処理する「アトミック決済」を実現する可能性を持つ。
これは効率化ではなく、金融インフラそのものの再定義である。
■ 短期:実証フェーズで生じる制度摩擦と技術選定競争
もっとも、この動きが即座に既存市場を置き換えるわけではない。
証券管理を担う「ほふり(JASDEC)」など既存インフラは依然として中核機能を持ち、当面は
・レガシー清算
・ブロックチェーン清算
の並行運用となる可能性が高い。
さらに、基盤チェーンの選定という技術競争も残る。
現時点で技術支援を担うProgmatに加え、
証券トークン化領域ではBOOSTRYなど複数プレイヤーが存在する。
つまり短期フェーズは「実装競争」というより、
標準仕様を巡る主導権争いの段階にある。
■ SBI不参加が示す本質──金融ブロック化の始まり
今回の報道で市場の関心を集めたのは、SBIの動きだ。
同社トップは、連合参加を拒否した理由として
・画一化
・競争制限
・護送船団的構造
を挙げている。
この判断は単なる企業戦略ではない。
金融オンチェーン化の覇権を巡る「連合モデル vs 分散モデル」という構図を象徴している。
実際、SBIは独自路線として
・ステーブルコイン基盤
・RWA取引インフラ
・金融特化型L1チェーン
の開発を同時並行で進めている。
これは、日本の金融市場が
単一プラットフォーム統合型ではなく
複数ネットワーク競争型へ向かう可能性を示唆する。
■ グローバル比較:米国はすでに次段階へ
世界市場では、トークン化金融は概念段階を超えている。
ブラックロックが運用するトークン化MMF「BUIDL」は、
運用残高18億ドル規模に到達しており、実需が成立している。
またNYSEもトークン化株式プラットフォーム開発を進めており、
金融商品はすでに「オンチェーン前提」で設計され始めている。
つまり日本の今回の実証は、追随ではなく
国際標準争いへの参加表明と位置付けるべきだ。
■ 中長期:金融市場は「時間」から解放される
ステーブルコイン決済が実装されれば、最大の変化は速度ではない。
金融市場の時間概念そのものが消える。
現在の証券市場は
・営業日制
・清算日制
・市場時間制
という三重の時間制約に縛られている。
ブロックチェーン決済はこれを
・24時間
・365日
・即時確定
へ変える。
この変化は、取引所の役割、清算機関の存在意義、資本効率の概念をすべて書き換える。
■ 結論:実証開始はゴールではなく開戦合図
今回の発表の本質は、
ステーブルコインが使われることではない。
金融覇権競争が、日本国内でも正式に始まったことだ。
短期的には
・制度整備の遅延
・規格争い
・企業間対立
がノイズとなる。
しかし中長期では
・証券市場の常時稼働化
・RWAの流動化
・国境を越えた資本移動
が同時に進行する可能性が高い。
注目すべきは価格ではない。
誰が標準を握るかだ。
金融は今、静かに「インフラ戦争」の時代へ入っている。
