法人の暗号資産の期末評価方法
法人における暗号資産の期末評価方法は、以下の通りです。
市場が活発に機能している場合
保有している暗号資産について、継続的かつ頻繁に取引が行われており、かつ価格情報が誰でも確認できるような市場が活発に機能している場合、原則として時価で評価する必要があります。この「時価」とは、決算期末時点における市場での取引価格を意味します。
具体的には、期末の市場価格と帳簿上の取得原価との差額が評価損益として認識されます。時価が取得原価を上回っていれば評価益、下回っていれば評価損となります。2023年度に改正された税制では、基本的にはこのような時価評価が原則とされるようになりました。
活発な市場が存在しない場合
一方で、保有する暗号資産があまり取引されておらず、客観的な価格が把握しにくいようなケースでは、「活発な市場が存在しない」と判断されます。このような場合には、取得時に支払った金額やその時点の時価(無償取得の場合)などを基にした取得原価によって評価を行うことになります。購入時の手数料なども含めた金額が取得原価となります。
ただし、取得原価による評価であっても、期末時点で市場価値が著しく下がっていると認められる場合には、減損処理を行い、評価損を計上する必要があります。活発な市場がない暗号資産の場合、価格の信頼性に欠ける可能性があるため、税務上・会計上のリスク回避の観点からも慎重な判断が求められます。
期末評価損益の会計処理
期末評価の結果として生じる損益は、会計処理や法人税の計算に大きな影響を与える要素です。
時価評価を適用した場合には、評価損益はその事業年度における損益として処理されます。評価益は課税所得に加算され、評価損については損金として扱われます。
一方、取得原価による評価方法を選んだ場合は、減損が必要と判断されたときのみ評価損が発生し、会計上で損失処理が行われます。なお、2023年度の税制改正により、法人が自己発行した暗号資産で特定の条件を満たす場合には、時価評価の対象から除外され、取得原価を基準とすることが認められています。
暗号資産デリバティブ取引
暗号資産を対象としたデリバティブ取引、たとえば先物やオプションなどは、現物の取引とは異なる基準に基づいて評価が行われます。これらは、決算期末の公正な市場価格をもとに、未決済ポジションの評価損益を計上するのが一般的です。
デリバティブ取引における損益は、取引所で公表される清算価格や市場価格などを参考に算定され、法人税計算にも影響を及ぼします。デリバティブは価格の変動によって含み損益が大きく変動するため、特に決算時にはリスク管理を徹底し、適切に申告する必要があります。
期末評価の計算と会計仕訳
期末評価の具体的な計算と会計仕訳について解説します。
時価評価における評価損益
法人が暗号資産を5,000,000円で取得し、期末時点で時価が5,500,000円に上昇したとします。
この場合、500,000円の評価益が発生します。
この場合の仕訳は以下の通りです。
(借方)暗号資産 500,000円(貸方)評価益 500,000円
上記と同様に、暗号資産を5,000,000円で取得し、期末時点で時価が4,500,000円に下落したとします。
この場合、500,000円の評価損が発生します。仕訳は以下の通りです。
(借方)評価損 500,000円(貸方)暗号資産 500,000円
時価評価は、暗号資産の価格変動が直接損益に影響するため、変動に注意する必要があります。
取得原価評価における評価損益
取得原価による評価を行う場合には、購入時点の価格が帳簿に記載され、時価の変動による影響は反映されません。
たとえば、法人が暗号資産を500万円で購入し、購入手数料として1万円を支払った場合、取得価額は501万円となります。期末において価格が550万円に上昇していても、または450万円に下落していても、評価損益は発生せず、帳簿価額は501万円のままです。
この方法では、新たな取引がない限り、期末における仕訳の追加は不要です。帳簿管理の面で安定性がある点が、この評価方法の利点です。
複数の暗号資産を保有している場合
法人が複数の暗号資産を保有している場合、それぞれの資産について個別に評価を行います。ただし、税務上は、同じ分類に属する暗号資産については評価方法を統一する必要があります。
たとえば、コインAは時価評価、コインBは取得原価評価といった具合に種類ごとに評価方法を分けることは可能ですが、コインAの中で一部だけ異なる方法を使うことは認められません。
また、取得原価を管理する方法として、移動平均法や総平均法などの計算手法を活用することが重要です。どの方法を採用するかは、法人の財務方針やリスク管理戦略に基づいて判断されるべきです。
法人の暗号資産の会計処理
法人における暗号資産取引時の会計処理と仕訳について解説します。
暗号資産購入時
法人が暗号資産を購入した場合、取得価額は購入時に支払った金額に購入手数料を加えた金額です。えば、暗号資産を500,000円で購入し、手数料として1,000円を支払った場合、取得原価は1,001,000円です。この取得価額は会計上重要なポイントであり、正確に計上する必要があります。仕訳は以下の通りです。
(借方)暗号資産 501,000円(貸方)現金預金 501,000円
暗号資産を購入する際、税務上も取得原価が必要となる場合があるため、購入時点での正確な記録が必要です。
暗号資産売却時
法人が暗号資産を売却するとき、売却価額と帳簿上の取得原価との差額を損益として認識します。たとえば、帳簿価額が500,000円の暗号資産を600,000円で売却した場合、100,000円の売却益が計上されます。仕訳は以下の通りです。
(借方)現金預金 600,000円(貸方)暗号資産 500,000円
(貸方)売却益 100,000円
なお、売却損が発生する場合は「売却益」の代わりに「売却損」を借方に計上します。
異なる暗号資産への交換時
異なる暗号資産同士の交換は、会計および税務上、売却として扱われます。たとえば、100ドル相当のコインAを交換してコインBを取得した場合、コインAの帳簿価額との差額が損益となります。仕訳は以下の通りです。
(借方)暗号資産(コインB) 100ドル(貸方)暗号資産(コインA) 帳簿価額
(貸方)売却益(または借方・売却損)
税務上の譲渡益も計算され、法人税の課税対象となります。
決済手段として利用した場合
法人が商品やサービスの支払いに暗号資産を利用した場合、その行為は暗号資産の「譲渡」として扱われます。したがって、暗号資産の帳簿価額と譲渡価額(商品やサービスの価格)との差額を損益として計上します。たとえば、帳簿価額が500,000円の暗号資産で600,000円の商品を購入した場合、仕訳は以下の通りです。
(借方)仕入高 600,000円(貸方)暗号資産 500,000円
(貸方)売却益 100,000円
このように、決済時にも税務上の利益認識が発生するため、正確な処理が必要です。
エアドロップ
エアドロップにより無償で暗号資産を受け取った場合、取得時点の時価を取得原価として計上し、同時に「雑収益」として認識します。たとえば、その時点で時価が50,000円である暗号資産を受け取った場合、仕訳は以下の通りです。
(借方)暗号資産 50,000円(貸方)雑収益 50,000円
エアドロップで取得した暗号資産も、その後売却や交換を行った際には、この取得原価を基準として損益計算が行われます。
法人が知っておくべき暗号資産のリスクと対策
法人が知っておくべき暗号資産のリスクと対策について見ていきましょう。
価格変動リスク
暗号資産は需給の影響を受けやすく、価格が予測不可能なほど変動する特性があります。この価格変動リスクは、法人にとって重大な経済的影響を及ぼす可能性があります。特に決算期末の評価時や売却時において、予想以上の損失が発生することもあり得ます。リスクを減らす方法としては、適切な期末評価方法を導入し、取得原価法や時価法を慎重に選択する必要があります。また、複数の暗号資産を分散して保有することでリスクを分散させる手法も有効です。
セキュリティリスク
暗号資産はデジタルデータとして取引され、その保有や取引にはブロックチェーン技術が採用されています。しかし、取引所のハッキングやウォレットの盗難、秘密鍵の紛失などのセキュリティリスクがあります。法人が取引や保有を行う際には、信頼性の高い取引所を選び、コールドウォレットなどを利用することが重要です。さらに、アクセス権限を適切に管理し、従業員や担当者に対して教育を行うことで、リスクを最小限に抑えられます。
法的・規制リスク
暗号資産は法定通貨ではなく、国家による価値の保証がないため、日本を始め各国や地域の法規制によりその利用が制限される場合があります。法人が暗号資産を扱う場合、税金や会計処理に関する法規制に従う必要があります。また、改正が行われる可能性のある税制や規制にも常に注目し、迅速に対応できる体制を整えることが不可欠です。
えば、令和5年度税制改正では期末評価方法に関する改正が行われ、法人が保有する自己発行ではない暗号資産について原則として期末時価評価が義務付けられる一方、特定譲渡制限付暗号資産については取得原価評価が可能となりました。こうした変更点を把握し、適切な仕訳や決算書への反映を行うことが、法的なリスク回避につながります。
法人における暗号資産の具体的な利用目的
法人における暗号資産の具体的な利用目的は、以下の通りです。
投資・投機目的
法人が暗号資産を利用する主な目的の一つに、投資や投機が挙げられます。暗号資産はビットコインやイーサリアムなどを中心に、高い価格変動性が特徴です。この価格変動を利用し、将来的な値上がり益を期待して資金を投入する法人が増えています。
投資目的で保有する場合、年度末の決算において取得価額や期末評価方法による損益計算が必要です。えば、暗号資産を1BTC=500万円で購入し、期末時点でその時価が550万円だった場合、50万円の評価益が帳簿上計上されます。ただし、この評価益には法人税が課税対象となるため、税金の支払いも考慮した資金計画が求められます。
一方、投機目的の取引は短期的な利益を狙うため、頻繁な売買が行われがちです。そのため、取引結果の利益や損失を正確に計上し、適切に仕訳することが重要です。また、税務上、暗号資産の譲渡益に関するルールをしっかり理解し、適切に処理する必要があります。
決済手段としての導入
法人が暗号資産を利用するもう一つの理由は、決済手段としての導入です。特に国際取引においては、為替リスクの回避や銀行の仲介を不要とすることで、コストを削減できます。また、ビットコインやステーブルコインを使用すれば、迅速な決済が実現し、取引相手にとっても利便性が向上します。
決済手段として暗号資産を保有する場合、その資産は流動資産として取り扱われます。また、取引に利用した時点で譲渡益あるいは譲渡損が発生するため、それに基づいて適切な仕訳処理が必要です。えば、1BTCを500万円で購入し、商品代金として600万円相当で取引に使用した場合、100万円の譲渡益が計上されます。
ただし、暗号資産は市場価格が変動しやすいため、価格リスクを抑えるための対策が求められます。特にステーブルコインの使用は、価格安定性を重視する法人にとって有益な選択肢となるでしょう。
従業員報酬やインセンティブとしての付与
近年、一部の法人では従業員報酬やインセンティブとして暗号資産を付与する動きも見られます。特にスタートアップ企業などでは、従業員のモチベーションを向上させる目的でビットコインやトークンを報酬の一部として提供するケースがあります。このような報酬の付与には、将来的な価格上昇を期待する従業員や法人双方にとってメリットがあります。
暗号資産を報酬として付与する際の会計処理には注意が必要です。えば、支給時の時価を基に従業員給与として計上し、その金額に応じて所得税や社会保険料が計算されます。また、法人側では、その金額が損金算入の対象です。税金やその他の法的義務を考慮し、適切な仕訳を行うことが重要です。
さらに、暗号資産の付与が従業員にとって理解しやすく、法的リスクを避けるためにも、明確な契約や利用ガイドラインの整備が不可欠です。この取り組みは、法人が暗号資産を活用するにあたって、信頼性確保のためにも求められる対応です。
法人が扱う主要な暗号資産の種類と概要
法人が扱う主要な暗号資産の種類と概要について見ていきましょう。
ビットコイン(BTC)
ビットコイン(BTC)は、最も知られている暗号資産であり、暗号資産の先駆けとして個人や法人を問わず多くの投資家から取引されています。法定通貨のように中央管理する者が存在せず、ブロックチェーン技術を活用して安全性を確保しています。価値が需要と供給によって決定されるため、価格変動が激しい特徴を持っています。法人が保有する場合、期末評価方法や仕訳を適切に管理することが必要です。
イーサリアム(ETH)
イーサリアム(ETH)は、ビットコインに次いで高いシェアを占める暗号資産であり、スマートコントラクト機能が特徴です。この機能により、複雑な取引やプログラム的な契約を実現できる点で企業からの注目度が高いです。法人がイーサリアムを取引する場合、税金や決算への影響を考慮しながら取引内容を記録することが重要です。
ステーブルコイン
ステーブルコインは、法定通貨や資産に連動して価格が安定するように設計された暗号資産です。ビットコインやイーサリアムのような大きな価格変動リスクが少なく、決済手段としての利用が進んでいます。法人においては、決済資金や取引の媒介として利用されることが多く、帳簿上では流動資産として分類されることが一般的です。
その他の主要アルトコイン
ビットコインやイーサリアム以外にもさまざまなアルトコイン(代替暗号資産)があります。えば、リップル(XRP)は主に国際送金に特化した暗号資産であり、トロン(TRX)はデジタルコンテンツ分野での活用が期待されています。法人がこれらのアルトコインを利用する場合、それぞれの特性や取引方法を理解し、適切な期末評価方法や仕訳対応を行う必要があります。
まとめ
法人が暗号資産を取り扱う際、期末評価や取引の仕訳処理、税務上の取り扱いには十分な注意が必要です。暗号資産は価格変動が大きく、リスク管理が求められる一方で、投資や決済手段としての活用など、ビジネスにおける多様な可能性を秘めています。
期末評価の方法については、時価法や原価法の選択が必要となり、法人税の影響や仕訳の正確な処理も重要です。また、暗号資産を購入・売却・交換する場合や、マイニング収益を計上する際などには、具体的な会計処理と仕訳に対応できる知識が不可欠です。
令和6年の税制改正や譲渡制限付暗号資産に関する新しいルールも踏まえ、最新の法令や規制を継続的に確認しながら適切に対応することが求められます。法人が暗号資産を安全かつ効率的に活用するためには、専門的な知識を身に付けたり専門家からのサポートを受けることが必要です。
本記事を通じて、暗号資産関連の業務を円滑に進めるための参考としていただければ幸いです。